なぜマイナス金利が導入されたのか
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2016年1月末の金融政策決定会合で導入された「マイナス金利付き量的・質的緩和」は、アベノミクスの第一の矢である金融政策の限界を明らかにするものでした。なぜマイナス金利政策が導入され、その効果はどのようなものが期待されているのでしょうか。マイナス金利導入までの流れと導入後の影響を見てみましょう。
「2%の物価安定の目標」と量的緩和の導入
「異次元緩和」とも呼ばれる日本銀行(日銀)の金融緩和は、安倍首相が掲げる経済政策「アベノミクス」と歩調を合わせて2013年4月に導入された金融緩和政策です。
その内容は、
- 量的緩和…世の中に出回る資金量を増やす
- 質的緩和…償還までより長期にわたる金融資産やリスク資産の積極的な買い入れ
を組み合わせた金融政策のことを指します。
具体的な政策を見ると、量的緩和は日銀の供給するマネタリーベース(資金供給量)を年間で60兆~70兆円、2年間で138兆円から270兆円に倍増させるとともに、長期国債の年間50兆円規模で購入が含まれます。
質的緩和は40年債を含むすべての長期国債の買い入れにより、国債の払い戻し(償還)までの期間(平均残存期間)をそれまでの3年弱から7年程度へ延長するとともに、上場投資信託(ETF)を年間1兆円規模、Jリート(不動産投資信託)を年間300億円規模で購入することが含まれます。
量的・質的金融緩和は、デフレからの脱却を大きな目標として導入され、消費者物価の前年比上昇率(インフレ率)を2年のうちに2%に引き上げることを目標としていました。
追加緩和・マイナス金利政策の導入と金融政策の限界
当初は期待感から順調なインフレ率の上昇を達成していた量的・質的緩和ですが、消費税の8%引き上げや原油安などの影響により、当初の2年のうちにインフレ率を2%に引き上げの達成は難しくなりました。
そのため、2014年10月の金融政策決定会合で
- マネタリーベースの増加量を年60兆~70兆円から年80兆円に引き上げ
- 長期国債の購入量を年50兆円から年80兆円へ引き上げ。あわせて国債の平均残存期間を7年程度から7~10年程度に延長
- ETFの購入額を年3兆円、Jリートの購入額を900億円に増額
からなる量的・質的金融緩和の追加策(追加緩和)を導入しました。
カンフル剤として円安と株価上昇を招いた追加緩和ですが、その効果は一時的なものにとどまり、株価の下落と円高傾向が強まります。
この状況を打開するために導入されたのが、「マイナス金利付き質的・量的緩和」です。
マイナス金利付き質的・量的緩和では、従来の金融緩和に加えて市中銀行から日銀が預かる日銀当座預金の一部に対して一定のマイナス金利を付与することで、資金の市中への流通をうながす金融政策です。
これまでの金融緩和は資金の流通量そのものを増大させることで資金需要の活性化を目指していましたが、増加した資金の大部分はそのまま日銀当座預金に預けられ、マイナス金利導入時点で220兆円もの残高に膨れ上がっていました。
マイナス金利はこのうちの一部にでも預かりコストとなるマイナス金利を付与することで、資金を市中に流す動機づけをするために導入されました。しかし過剰な報道がおこなわれたことで期待したような効果は生じず、金融機関の手数料回数の変更など手数料ビジネスを強化する方向に動いています。
おわりに
量的・質的緩和と追加緩和、マイナス金利付き緩和と様々な金融政策を導入してきた日銀ですが、金融政策と一体となっておこなわれるはずだった財政政策・構造改革が有名無実に終わっている現在、その効果の限界も見えています。
今こそ「3本の矢」の故事になぞらえて、財政政策と構造改革もセットにした新しい成長戦略を進める必要があると言えるでしょう。